シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 
思い出すのは"約束の地(カナン)"のこと。


嘘でも偽りでもいいから、お試しでいいから、付き合って欲しいと必死で懇願しても了承してくれなかった芹霞。


悲しくて苦しくて悔しくて。


櫂をダシにしたら、ようやく"お試し"をしてくれたんだ。


芹霞にとっては、別れること前提の…"お試し"。


だけど"お試し"で終わらせたくない僕は…結局"一押し"を逃してしまった故に、その関係をうやむやにしたまま…今まで流してきてしまったけれど。


最後の砦たる"おでかけ"がある限り、"お試し"はまだ有効だ。


だから、タイミングを逃した以上に、不用意に出かけられなかったんだ。


芹霞が考えているほど、僕は軽くは考えていない。


僕は忘れられない。


一時でも、僕を意識してくれた瞬間を。


手を繋ぎ、頬を赤く染め…

僕の"彼女"として、僕の隣にいようとしてくれたことを。


僕が思い描いているものの、まだ入り口の姿ではあったけれど。


一度でも"夢"を見てしまえば、もう現実には帰れない。


何処までも、幸せな夢を求めてしまう。


――あたしも本当に、玲くんが好きだよ?



僕は信じていたいんだ。



完全に望みを失ったわけではないと。


そうだろう?


伝える時期を間違っただけ。

だから伝わらないだけ。
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