シンデレラに玻璃の星冠をⅠ

櫂。


最初こそ動揺していたけれど、

本当にお前は落ち着き払っているよな。


どこから来るんだ、その余裕。


――約束、して欲しいんだ。


あんなことを言い出して、どうして平然としていられる?


僕の挑発も乗らなかった櫂。


結局僕は、櫂を煽ろうとして…僕が儚い想いに煽られただけ。


いつもいつもそうだ。


僕が心を痛めつけても、それが明るい未来に繋がらない。


痛んで傷ついて…それでフェードアウト。


上手くいかない。


苛々するほど、上手くいかない。


僕は…此処まで恋愛下手だったのか。


カタンと音がした。


櫂がお椀をテーブルに置いた音だ。



櫂は切れ長の目を、真っ直ぐに朱貴に向けていた。



「紫堂櫂。俺の言いたいことは判っているな?」


朱貴の声に、櫂は頷いた。



「ああ、お前が来るまでの約束だ。

だから…此処を出て行く。

飯まで食わせて貰って…助かった」


そう、頭を下げた。
< 770 / 1,192 >

この作品をシェア

pagetop