シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 
「はあああ!!?」


おかしな声を出したのは、芹霞。


「紫茉ちゃんに会えたのに、出て行くの!!?」


「ああ…そういう約束だった。ここの鍵だ、返す」


それを受け取った朱貴は、薄く笑った。


「いやに潔いな、紫堂櫂。

――で、成果はあったのか?」


顎で、眠ったままの"彼女"を促す。


「……」


「"安心"させられたのか?」


「……」


「その状態で、ここから出て…どうするつもりだ? 孤立無援状態で、必須条件である"あの女"から遠ざかり、それで勝算はあるのか?」


「それは……」


言葉を濁した櫂に、朱貴は天井に向けて煙を吐く。


「聞かないんだな。俺がいかにして此処に来れたのか、そしてあの女は何者か、あの蟲…三尸が何故湧いたか」


「お前は…俺達を助けたい訳じゃないんだろう? 巻き込みたくない。俺に救いの手を差し伸べようとしてくれた人達を」


漆黒の瞳と、濃灰色の瞳が絡み合う。


「だから聞かないのか。

それが己の首を絞めることになるだろうに。

聡し過ぎるのか、愚か過ぎるのか」


くつくつ、喉元で笑う声。


「そういう潔さは、嫌いじゃない」


そう言うと、指で煙草の火を消した。



そして言ったんだ。



「"あの女"は…使い魔だ」



空気が――


震えた。

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