シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「エネルギーとは…瘴気のことか?」
櫂が静かに訊けば、朱貴は軽く頷く。
「だから…途中で瘴気の流れが変わったのか。"生ける屍"の個々の瘴気は…使い魔たる"彼女"に注ぎ込み、より一層の"不安"を膨張させ…三尸が蔓延(はびこ)るように…」
そして言葉を切り、
「全ては…"用意周到"。成程…。攻撃力だけが、五皇ではないということか。まあ…今更ではあるんだが」
薄く笑った。
ただ判らないのは、何故緋狭さんが"生ける屍"を道具として扱うことが出来たのか。
あれは、妖しい書物や魔方陣によって、強制的に生かされた屍のはずで。
魔方陣…。
ふと、緋狭さんが見せた…彼女の背中の烙印が思い浮かんだ。
何か…関係があるのだろうか。
その時、紫茉ちゃんが芹霞に囁いているのが聞こえた。
「なあ…"生ける屍"って何だ?」
「え? その名の通り。死なない屍体のことよ。外にわさわさ居たでしょう? ゾンビよ、ゾンビ」
「ゾンビ?」
紫茉ちゃんの顔が、眉間に皺を寄せた。
話がまるで見えないというように。
だから僕は――
1つの可能性に思い至った。
「ねえ…もしかして。
君は見えていないの? あの群れ」
此処からでも見えている。
ただ一時よりは数は減じているようにも見える。
あの屍の役目が瘴気を発することならば、発し終えた屍は…闇に還ったのだろうか。
此処からでは真相は判らないけれど。
それでも完全消滅したわけではない。
窓…というより、校舎から一定距離をおいているとはいえ、無気力な立ち姿を見せる集団は…明らかに"異常"で。
こちらに向けられる悍しい瘴気はまだ健在で。
あの中を割って此の保健室に来たはずの紫茉ちゃんが、その事態に気づき得ないのは、はっきり言っておかしい。
瘴気を感じられない普通人であるにしても、両目がある限り…嫌でも視界に入ってくるはずだ。
しかし――
「ああ、何も見えないな」
紫茉ちゃんはそう言った。