シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「あたしが此処に来た時。外に群れていたのは…惨殺されたらしい野犬の屍を取り囲んでいた野次馬だけだ。後は普通の…至って日常だったぞ?」
「えええ!!?」
芹霞は声を上げて。
「紫茉ちゃん、今もいる…ほらあの窓の外!!! 見えないの!!?」
「景色だけ…なんだけれど」
紫茉ちゃんは困ったように笑う。
僕は朱貴を見た。
「貴方は言った。"生ける屍"と。
だとしたら、貴方には見えているんですね?」
朱貴は愉快そうに目を細め、顎をしゃくった。
「どうして…彼女には見えない?」
櫂の問いに、口許で笑いを作る朱貴。
「紫茉の反応は…至って普通だ。翠も見えていない。翠だけではない。きっとこれから登校してくる桜華生は見えていないはずだ。見えているのは…お前達だけだろう」
「……何故だ?」
櫂の声に、朱貴は挑発的に笑う。
「お前達は…染まりすぎたんだ。
闇の世界にな」
「闇の世界?」
「覚えが在るだろう。瘴気溢れた…人が触れてはいけぬ領域のもの。それに関わってきたはずだ」
藤姫。
魔方陣。
黒の書。
屍食教典儀。
指しているのは…それらのことか。
「では…。
お前も見えるということは。
お前も関わってきたんだな、そういう世界に」
切れ長の目が鋭い光を放った。
それを真っ向から受けた朱貴は、是も否も言わず…ただ薄く笑うばかり。