シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「なあ、朱貴。それは皇城で言う…《妖魔》のことか?」
紫茉ちゃんが神妙な顔をして言った。
《妖魔》?
また…何というか、怪しげな単語で。
「似て…非なるもの。ただその種は…限りなく、《妖魔》に近い」
朱貴の答えに、紫茉ちゃんは何とも困惑した顔をした。
「じゃあ見えなくとも仕方が無い。あたしは、《妖魔》だ何だと言われても、さっぱりだし…」
「翠が言ってたな、《妖魔》祓いが皇城の本業だと。2ヶ月前に大量発生した《妖魔》憑きを相手にしていたと。確か翠曰く、《妖魔》とは」
――悪魔みたいな奴だよ。姿がない…ん、悪霊みたいといえばいいのかな。それが人間に取り憑けば、人間が狂って殺しまくるんだ。
「ああ、玲は…その時シャワーを浴びていたか」
どうやら僕以外は、その話題は了承済みだったらしい。
2ヶ月前といえば――。
藤姫と黒の書。
"生ける屍"…無関係ではないと言うことか。
だとすれば。
"生ける屍"に敵対する皇城は、朱貴は…藤姫に関連する魔導書を持つ者達と、敵対関係にあるというのか。
「生憎だが。お前達が考えている程、現実は単純には出来ていない」
くつくつと、喉元で朱貴は笑う。
「第一。俺は皇城に与(くみ)した覚えはない。むしろ…皇城など滅べばいいと思っている側だ」
一瞬。
垣間見た濃灰色の瞳に浮かぶのは…憎悪に類するもので。
「は!!?」
紫茉ちゃんが驚いた声を上げた。
「お前、翠の教育係だろう!!? それが何で!!? お前周涅とも旧知の間柄じゃないか!!!? お前どこまで謎めけば「紫茉、黙れ」
ぴしゃりと制した朱貴の目が、辺りを窺うような…警戒に満ちたものとなった。
そして腕時計を見て。
「10分…だな」
そう呟いた。