シンデレラに玻璃の星冠をⅠ


「紫茉の力は稚拙過ぎるんだ。"夢"は深層心理と過去の残像が入り乱れる場所。紫茉は他人のものに飛んで"映像"は見れるが、それが何を意味しているかまでは読み取れない。

解釈に時間をとられすぎると、人間の防衛本能とやらが、侵入者を排除しようと攻撃する。その相手をするだけの力がないから、いつも数秒で戻ってこないと命が危険になる。だが今回。数秒ではコトは足りんだろう。

紫堂櫂。お前の力と判断力があれば、10分でいい筈だ」


紫茉ちゃんは、確かに何処か神秘的な印象はあった。


普通人だという割には、皇城の次男坊と行動を共にして。


皇城の中枢に居る男の妹で、しかも位階というものを貰っているのなら。


それ相応の力があるべきだと考える方が自然だ。


"ない"というのは、あくまで彼女の主観。


実力主義の皇城において、肩書きだけで位階上位になれる程、甘いものではないはずだから。


「どうして…そこまで…」


櫂が戸惑ったような色を顔に浮かべていた。


「俺も鬼ではないと言うことだ、小娘」


鋭い目が向けられたのは由香ちゃんで。


「ひいいっ!!? ごめんよ!!!」


怯えて僕の後ろに隠れた。


僕との会話が、聞こえていたらしい。


櫂に惑う仕草が見られた。


申し出を受けるべきかどうか…考えているのだろう。


だけど。


必須条件のエディターの"安心"を得る為には、その心にまず触れ、不安なものを解消しなければならない。


使い魔が本人とリンクしているというのなら、1つの肉体に内包された複雑な意識の、絡まりを解かねばならない。


もし此処で紫茉ちゃんの力に頼らねば、まず僕達はエディターを探し出して、その話を聞いて、正否を判断してから動かねばならない。


時間ロスだ。


駄目だ。


たった10分で直接その心に触れられるというのなら。


深層心理が構成する…夢の世界に入れるというのなら。


どんなに危険でもそれに乗るしかなく。


いやそれしか、ないのだろう。


これはチャンスかもしれない。

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