シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「いずれ消える痕よりも、そっちの方が目立っていい」
「はあ!!?」
「耐えた俺の…ささやかな自己主張だ」
やはり――
見て見ぬ振りを出来ない俺は、こうして自分の痕跡をつけるしかないけれど。
「何訳の判らんことを…ふうふうっ…痛い、櫂に食われた…ぐすっ」
いつまでも強く、お前に残っていたい。
一秒でも長く。
何よりも強く。
「本当にあんた、時々意味不明」
それだけは覚えていて欲しいから。
「ははははは」
思わず笑ってしまった俺は、そして――
右手から緑色の風の力を放出させた。
一直線状の暴風が鋭さを増して、隠れていた制裁者(アリス)の姿を炙り出し、殺気諸共、その輪郭を切り裂いていく。
風は尚も止むことなく、辺りの制裁者(アリス)を捕まえては壁に打ち付け、或いは切り裂いていく。
壁が砕け、天井が抜け…敵の骸が瓦礫の山に混じる。
「ああ…桜ちゃんの見廻りを無駄にして。これなら敵さん、入り放題じゃないの? 壁に見事な陥没作って。外が見えるじゃない」
「元より…俺らの結界は破られている。校舎内に異常蔓延している瘴気によってな。どこから忍び込んだか敵の気配を察するより、一目瞭然でお前でも判りやすいだろう」
「入った瞬間、櫂にやられるなんて可哀相だね」
「これでも手加減して、形は残しているんだけれどな。もっともっと容赦なくいきたい処だが」
「櫂様…随分とお怒りのようで」
芹霞が引き攣った顔をした。
そんな俺でも、手を離さないでいてくれる芹霞を…愛おしく思いながら、軽く笑い返し、前方に再び視線を向ける。
瘴気の濃度が高い。
まるで…悍(おぞま)しい魔方陣を目にした時のようだ。
瘴気が、敵の気配と…煌の気配の探知を妨げる。
瘴気自体が敵か、或いは攪乱が目的なのか。
「か、かかかか櫂!!!
あれ…ねえ、あれ!!!」
芹霞が叫んで指差した先には、不自然に何本か万年筆が浮いていて。
その異様な光景に俺が目を細めると同時に、そこから青い光が放たれた。