シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
行けども行けども暗い闇。
濃密で、ねっとりと身体に絡みついてくるような常闇。
朝を迎え光に満ちたはずの校舎内に、無秩序に蔓延(はびこ)る闇の発生は、余りに唐突で異常過ぎた。
闇が毛穴から体内に流れ込むようで…悪寒と同時に吐き気を覚えた。
「凄まじい…瘴気ですね。この先は…情報処理室などが機械系が並ぶ棟で、"そういうもの"とは無縁な気がしますが」
"そういうもの"ってどんなもの!!?
怖くて聞けなかった。
「だけど…昔から、"そういうもの"は機械類に取り憑くって言いますね…」
桜ちゃん、"そういうもの"を特定しなくてもいいから!!!
「芹霞さん…震えてます? 今まで、"生ける屍"だの共食いだの、目が抉られるだの、蛆に食われるだの見てきたのに…」
小走りながら、そう言ってくる桜ちゃん…意地悪だ。
「桜ちゃん、口に出さなくていいから!!! あたしはね、お化けとか幽霊だとかそういうのが、凄く苦手なの!!!」
よく煌から、"ぶるぶるポイント"を聞かれるけれど、何処が判り難いのか逆にあたしが聞きたい。
得体の知らない形無いモノなんて…一番厄介で怖いじゃないか。
「大丈夫です。何があっても守りますから…」
桜ちゃんの声が響いてきた。
暗闇で桜ちゃんの輪郭は朧にしか目に映らないからなのか…やけに声音が低くて男の子っぽく、頼もしく聞こえてくる。
「安心して下さい」
くすりと柔らかく笑われたような気がしたのは、気のせいだったのだろう。
そんな笑い方をするような子ではないから。
漆黒の闇の裏で、桜ちゃんの表情など…見ることは出来ないから。