シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 



「芹霞さん…」


闇に響く桜ちゃんの声。



「命に代えても、守ります。



"約束の地(カナン)"の時のように」



どくん。


それは決意のように意志めいたもので、願いのように艶めいたもので。



「僕を…信じて下さいね」



非情な『漆黒の鬼雷』。


いつでも無表情で口数少ない桜ちゃんに…"甘さ"を感じるなんて、絶対これは闇が見せた幻影に違いない。


「気持ちは嬉しいけれど、命だけは大切にしてね。桜ちゃん、すぐ無茶して無理する子だって、もう判明済みなんだし」


そう余裕ぶって笑うあたしには、


「……子供扱い…か…」


そんな呟きは耳に届かず、闇の中に消えていた。


その時、隣の桜ちゃんの足音が、ぴたりと止まった。


「おかしい」


その響きは、あたしの中の"不安"という闇を煽った。


「これだけ歩いているのに…放送室に行き着かないばかりか、棟の向こう側にも行き着かない」


「え?」


桜ちゃんが、身動(みじろ)ぎをした気配がする。


「後ろも…駄目か」


そして数秒後、静かに桜ちゃんは言った。


「どうやら…僕達は――

無限回廊に…踏み入れたみたいです」


「無限回廊?」


「ええ。永久に出れない…流離(さすら)い続ける、環のような場所」
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