シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
渋谷、109正面玄関前。
人混みの喧騒が酷いのに、ラジオの有線放送までが流れてきて、更に雑然とした喧しさ。
『今週オリコン1位はZodiacの新曲、"サンドリオン"』
落ち目だったあいつら、櫂が手を弛めた途端…また人気復活したのかよ。
初聴だけれど…ヤケに気持ち悪くなる曲だ。
ざわざわと悪寒がしてくる。
俺の、Zodiacに対する拒絶反応は、半端じゃねえらしい。
ちろりと芹霞を見てみたが、まるで無反応。
芹霞の中での熱は完全過去のものとなったようで、それだけはほっと胸を撫で下ろした。
そんな俺の目の前では――
「翠(アキラ)!!! 探したじゃないか!!! 勝手についてきて、勝手にうろうろするな、心配したんだからな!!? 言い訳するな、反省しろ!!!」
――煌、109に居るんだって。行くよ!!
――俺も109へ行くトコだったんだよ。真似はそっちだろ、ワンコ!!
そんなやりとりの末、正面玄関に立っていた女が芹霞に手を振った直後、何故か俺達にくっついて歩いてきた小猿の頭にドでかい拳骨をくれたんだ。
耳障りなZodiacの歌声を弾く、その豪快過ぎる音に俺の胸はすっとした。
小猿は頭を両手で押さえて、キーキー飛び跳ねた。
「渋谷と言えば幻味軒の肉まんだろ!? 俺を怒る前に電源入れておけよ!!! そんなことより!! こいつらが紫茉の言う、"お友達"!!? 絶世の美女みたいに言うから、もっと可愛い女想像してたのに…紫茉より劣る上に、しかもワンコ連れじゃないか!!!」
どうしてこのサル、俺を怒らすことばかり。
「小~猿~!!! 誰が誰に劣るって、ああ!!? それから俺はワンコじゃねえ!!」
「ああ、紫茉ちゃん気にしないで。イヌとサル、犬猿の仲で野生に返ったみたい。ああそれからこのワンコは煌。歳はあたし達と同じ17歳。ウチで8年飼っている可愛いワンコなの。今は違う男が正式の飼い主だけどね。刺激しない限りは、ここまで噛み付かないから、仲良くしてね」
「そうか、煌。あたしは七瀬紫茉という。…ん?何処かで見たような顔だが…まあいい。何ともイキが良さそうだな、手でも繋いでおかねば…ははは。"猛犬注意"か」