シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
男が拳を突き出した。
それを足で弾いた私は、そのまま男の腹部に踵を入れようとしたが、男は床で横転してそれをかわし、開脚状態の足を回転させて私に切り込んでくる。
何という脚力。
何という身体のバネ。
その攻撃を肩に受け、思わず私はよろめいた。
「葉山ッッッ!!!」
存在すら忘れていた皇城翠が飛び込もうとしてきて。
駄目だ。
このままだと彼がやられる。
私にとっては、彼のことなどどうでもいいけれど…それにより、煌の苦しむ姿を見るのが本当に嫌で。
私は皇城翠にかぶさる様にして庇い、床にごろごろと転がった。
その間にも、銀の男の足は、まるで刃物のように私の身体を執拗に狙って繰り出され、身をそらしながら私は必死に逃げる。
そして――壁に行き着いてしまった。
近づく足が、やけに大きく見え。
私ははっと息を呑む。
「だ…大地の符呪ッッッ!!!」
皇城翠が叫んだのはその時で。
突然…地面がぐらぐらと揺れた。
揺れるだけではない。
斜めに…垂直に向けて傾いたのだ。
せりあがる床の一部に、私は糸を巻きつけ、皇城翠とぶら下がる。
舌打ちした銀の男は、一旦退けど――
「翠!!! もういい、傾きを止めろ!!!」
垂直になってしまったら…櫂様達が…!!!
「え、ええと…えいっえいっ!!!」
焦ったような皇城翠の声にあわせて、地面がその都度動く。
本当に都合よく。
「あれ…おかしい。あれ? あれ?」
安定…出来ないらしい。
まあ…潜在能力を生かした凄い技があれば、恐らく初めに披露していたはずで。
していないということは、出来ない理由があったわけで。
それを理解した銀の男が、かつて天井であった横壁を駆けて、万年筆のようなものを突き出した。
記憶にある。
あれは――。