シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「櫂様。だとしたら…2つの意識に分化したのは、その為だと? しかし殺人事件に発展するだけの決定的な事象がまだ足りない気がします…」
「決定的…それが、虐めであり葬式さ…桜。
だから、"死んだ"んだ…それが"上岐妙"に向けられたものだと知らない、イチル様の意識は、一度」
「!!! 紫堂…じゃあイチル様は……」
「やはり存在などしていない。"出てきた"だけだ、学園長に目をつけられたせいで。
ちなみに"上岐妙"と"イチル様"の意識は互いに存在を知っていなかったはずだ。知っていたら、幽霊騒ぎにはならん」
「二重人格…みたいなもの?」
芹霞の問いに俺は答える。
「厳密に言えば、違うかもしれないが…まあ、そう思った方が判りやすいな。1肉体に2つの意識があるのだから」
そして、俺は続ける。
「ただ全てが全てに出張ったわけではない。何度か"エディター"の身体でイチル様の仕事はしたんだろう。後は…噂が一人歩き」
「では櫂様。"エディター"の身体は、一体誰のものだと」
「肉体的なものから言えば…俺と芹霞が会った"イチル"。だが、優位意識は上岐妙。つまり、俺達が昔会ったイチルは…上岐妙に殺された。
そこから考えられるのは…"一縷"という存在の特殊さだ。
特殊であればある程、彼女を生かす為に…上岐妙が必要だったと言わざるをえない。それが今のような複雑さを抱え込んだ。
肉体の自我と、新たに入れられた自我と。いや…こうなれば自我という"心"は"何処の部分"に宿っているかという、根本的な問題になるのだろうが。
つまり、藤姫が生き続けたような――」
そこで俺は言葉を切り、そして口を開いた時だった。
「――へえ、いなかったんだ。
ボクの義妹…」
その時、ドアが開き…
「計都!!?」
上岐妙のような…長い前髪で顔を覆い、大きすぎる背広を身に纏った男が現われた。