シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
"計都"。


芹霞がそう呼んだ男は、一縷の義兄だという黄幡計都。


俺と芹霞の…幼馴染の兄。


今まで会ったことも、そうした存在がいたことすら知らなかった。


"――へえ、いなかったんだ。ボクの義妹"


その言葉に何ら驚愕の色はなく、小馬鹿にしたような…嘲笑が含まれていたと感じたのは、気のせいなんだろうか。


その表情は…髪に隠された顔からは窺い知ることが出来ない。


「計都…どうして此処に!!? あたし、夜遅かったから…連絡していなかったのに…」


「いやだねえ、神崎さん。まるで化け物でも見たように。君が泣き付いたんだろう? ここの理事長に。桐夏の授業は今日はないから、9時には理事長室に行って相談に乗ってあげてと、理事長直々に電話あったんだよ~」


理事長…氷皇か。

この男…計都に行き着くのは、氷皇の想定内のことだったのか。


そしてこの男。

やけに氷皇と親しそうだ。


「しかしなんだい、この桜華の有様。ガタガタに崩れ落ちて…オープンキャンパスどころじゃないね。学園長と連絡とれないって、下でセンセ方、青冷めた顔して騒いでいたよ」


「ああ、学園長ね…。学園長は…」


芹霞が煌を睨みつけた。


「別に俺のせいじゃねえだろ!!? 大体誰だよ、この男!!!」


「は!!? あんた過去二度も計都に会っていて、何で覚えられないのよ!!! 黄幡計都!!! 一縷の兄貴!!! 桐夏の新任数学教師!!! 南千住の合コン場所でも会ったでしょうが!!!」


合コン。


俺の顔がひくんと引き攣った。


相手の身なりがどうであれ、俺の知らない処で芹霞と連絡先を取り交わしていたというのが面白くない。


かといって、俺の知る処でそんなことをやらかそうものなら、絶対許さない。


結局は…嫌なんだ。


どんな男であろうと、芹霞に近づくのは。


そして。


芹霞は妙に、この男に慣れている感じで。


どうして…呼び捨てなのか。


教師を…呼び捨てにする芹霞ではないはずなのに。
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