シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「朱貴、紫茉はよくなったのか!!?」
「…随分と消耗仕切っていて、直ぐには回復できる状態にはありません。仕方が無く…寝せて安静にさせるしか、今とれる方法はありません。今、階下の茶道室に寝かせてきました。僕の結界を十分に施してあるので、まずは大丈夫でしょう」
どうしてこの男…皇城翠に対して、こんな優しげな丁寧語を使うのだろう。
もう十分、本性は暴かれていると思うのだけれど。
更に――
翠に向けられる…慈愛深い眼差し。
そしてそれを複雑そうに見つめる馬鹿蜜柑。
「……何だ? 何か言いたげだな」
煌に向けた濃灰色の瞳が、すっと細くなった。
「「なんでもありません」」
何故か皇城翠まで、背筋を正して否定する。
そんな彼らに…とりわけ煌に対し、益々胡乱さを強めた眼差しを向けていた朱貴だったが、唐突に…はっとしたように険しい顔を理事長室に向けた。
「どうして…紫堂櫂の気配がない?」
「ああ、理事長室が氷皇によって自壊し、氷皇が用意していた抜け道から先に逃げられた」
私は平然と事実を述べる。
「だから一刻も早く…」
櫂様に追い付かねばならないと、続けようとした言葉は、朱貴によって断たれた。
「氷皇が…壊した…だと?」
そしてつかつかと歩き、理事長室のドアを開けた朱貴。
破壊された残骸は――
「え!!!?」
何処にもなかった。
床にも陥没など見当たらない。
最初に入った時と同じ、整然とした光景のまま。
「そんな…床を突き破る衝撃が襲って!!!」
此の場で、それを言い切れるのは私だけ。
だけど夢ではない。
「氷皇…あの男が、自らの力の誇示する場所を、自らの力で壊すはずがないだろう。あの男は、自分の痕跡を残す為なら、この世界に博物館でも喜んで作り続ける男だ」
確かに、そうかもしれないけれど。
「付け加えれば、自らの力で脱出出来る男が、自分の領域内に抜け道など作るはずがない。作る必然性がない」
「だけど、現に…ロッカーが!!!」
「……何処にある?」
「え、そこに……え!!?」
私が扉を開き、櫂様を招き入れたロッカーは――
何処にもなかった。