シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「ああ、間違いないだろう。親父の側近の顔もなかったから。俺の監視を命じた元老院の動きは、当然親父の耳に届いているはずだから、俺が問い質しに来るのは予想していたはず。だから雲隠れしたのか、それともその前からなのかは何とも判別つかんがな」
『当主の気性思えば、次期当主に弁解しない理由が、クロ故かシロ故なのかが判らないね。ふう…じゃあ今度は、当主が何処にいるか探すしかないか。見つけたのは、どんな手がかり?』
思わず俺はにやりと笑ってしまう。
『まさかお前が、はいそうですかって黙って引き下がってきたなんて、僕は信じないよ? 何かみつけたから戻ってくるんだろう?』
さすがは、玲。
「親父の部屋に…妙なものが飾ってあった」
『妙なもの?』
「ああ。身を起こした蛇の石像だ」
『蛇…』
多分玲も…"約束の地(カナン)"を思い出しているのだろう。
「それから。腹の部分に模様があった。一瞥しただけだから確信は持てないが、あれは家紋でいう星紋、"九曜紋"だったと思う」
『九曜紋って…大きい円の周りに、小さい8つの円が取り巻いている? 平安の…桓武平氏千葉氏一族が用いた曜紋ってこと?』
「多分。玲も判っていると思うが、紫堂の家紋は九曜紋ではない。更には蛇に関連したものもない。しかも…ただのオブジェにしては、瘴気がありすぎた」
『瘴気…。当主が感じないはず無いよね。それを自室に持ち込むとなければ…かなり思い入れがある代物だということか。何だろう』
「親父のことだから、おかしな宗教にはかぶれてはいないと思うが…少し気になってね」
『こっちでも調べておくよ。蛇と曜紋…ね。
あ、そうそう。榊は入院を要するということで由香ちゃんから連絡あった。どうしても仇討ちたいって、また僕達に協力してくれるって。もう少ししたら由香ちゃんが家に来るから、ネットの調査は彼女に任せようと思う。僕はいつでも動ける態勢をとるよ』
「そうか…。氷皇は?」
『病院で置き手紙残して姿消したって。僕達を泳がしてくれる気なのか何なのか。突然泳がすつもりになったことに僕はひっかかりを感じるけどね』