シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「いい顔になりましたね、翠くん」
藍鉄色の髪をくしゃりと手で撫でる朱貴の顔は、実に満足気で。
それは兄であり父であり。
その役目を請け負った者だけが感じる、感慨深い情なのだろう。
「教育係も…もう必要ないのかも知れません」
そして同時にそれは、どことなく悲哀に満ち。
独り立ちされる…そんな寂寥感をも漂(ただよ)わせていて。
「あ、それは無理だわ」
それを知ってか知らずか、翠は朗らかに笑う。
「朱貴は俺の永遠の師匠だから」
すると朱貴は…泣きそうな顔で笑った。
それは珍しい程、儚い笑顔で。
何処までも…哀しみに満ちたものだった。
「1つ覚えておいて下さい」
朱貴は言った。
「九星の陣は…時間軸を狂わします。仮に周涅への説得が上手く行ったとしても…術を解除された紫堂櫂がいつ出てくるか、それは術者も判りません。即座なのか、1日後なのか、1週間先なのか」
「ええ!!? タイムリミットは夜中の12時なんだぞ!!? それまでに出ないとやべえんだって!!!」
煌が慌てて吼える。
「その時間軸の調整は…周涅とて無理です。紫堂櫂次第…といえるでしょう。彼が迷うことなく…正しき道を歩めば、すぐに出られます。周涅の創り出す紫堂玲の心の迷宮に足を取られれば取られるほど…すぐは出れません」
櫂様…。
私は祈るように…ロッカーが消えた場所を見つめた。
「それでは。僕の八門の陣が少しでも有効な内に。出来るだけ近くに…道を繋ぎましょう!!!」
そして私達の目の前には――
洞窟が拡がって。
薄れ行く景色の中、朱貴の声が響いた。
「紫茉がよくなり次第…僕も行きます」
「朱貴……」
「僕は……何があっても君を見捨てません。それだけは……」
そして――
洞窟の景色が固定された。
私達は…走った。