シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「なあ紫堂…やっぱり、葉山達遅くないか。それにさ…ボクの腕時計、狂いまくっているんだけれど」
あたしの時計もそうだった。
全ての針が右から左へ、左から右へ、忙しく動き続けている。
「磁場が安定していないのか。まるで"約束の地(カナン)"のようだな。寧ろ…異世界と考えた方がいいのか」
いつでも櫂は取り乱さない。
それはあたしの絶対的安心感を誘うもので、凄くありがたいものなんだけれど。
泰然とした態度の彼を見る度、屋上での櫂を思い出さずにはいられない。
弱々しく震えて泣いていた櫂。
それを見事に消して、今…こうしていつも通りに振る舞っているけれど。
今、何を考えているのだろう。
どっちの櫂が、真実の心なんだろう。
見えないのが…心苦しい。
「……。一度戻った方がいいな、悪いが…。どうもこのまま進むのは危険な気がする。まあ…帰り道があれば、だな」
どうしても櫂の警戒の念が警鐘を鳴らすのなら、何が何でも最優先で従うべきだと思う。
だけど、なんだろう…自嘲気な言葉の最後。
「帰り道なんて…1本道を歩いてきたのだから…、真っ直ぐに帰ればいい単純な話じゃ…あれ、あれれれ!!?」
あたし達は確かに、道なりにまっすぐ進んでいた。
しかし――…後方の道程は何股にも分かれていて。
…進んできたのと違う形状の道が、後方に続いていたんだ。
初めて見る道が、後方に続いていたんだ。
つまり、進むしかない世界なのだと…そう言われている気がした。
何処かに…誘われているのだ。
有無を言わせず強引に。