シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
ありえない事態が起きたからか、その動きが速すぎたからか、更にはそうした動きすらも舞うように優雅で流麗だったせいか…あたしは悲鳴すら口から出てこないで、ただ馬鹿みたいに見ているしか出来なくて。
片膝をついて頭を少し前に垂らした櫂を…玲くんは、何処までも艶ある顔で…満足気に見下ろしていて。
そして目を瞑り、仰け反るようにしながら両手を広げると…
「玲くんッッ!!!」
何と玲くんは…宙に浮いたんだ。
宙に!!!
そして更なる高みから櫂を見下ろすと、冷淡な笑いを顔に浮かべた。
お日様のような温かな笑みが、木枯らしのような冷たいものへと変化していて、残忍な黒いものに染まっていた。
それはありえない変化で。
更には、玲くんが高い場所に居るから…だけでは説明がつかない程の、高慢にも思える、妙な威圧感が漂っていた。
それはまるで――
冷酷な為政者。
それは櫂のような迸(ほしばし)る圧感にもよく似ていて、限りなく…久涅の残虐性に近いもので。
恐怖に酷似した…嫌な胸騒ぎで心臓がどくどく煩く脈うった。
嫌な汗が、頬に滴り落ちるのを感じる。
「神崎…師匠は、師匠じゃないよ」
由香ちゃんが震えた声で言った。
「師匠が…紫堂を攻撃するはずはない」
そう。
絶対、玲くんは櫂を攻撃することはない。
そりゃあ口では櫂のことを茶化して虐めたりするけれど、玲くん自らの手で櫂に暴力を振るわない。
それくらい櫂を可愛がり、同時に崇拝していて。
それは強制ではなく、玲くん自らの意志のはずで。
だから彼らは、普通人より強く、血よりも濃い…絆があったんだ。
では――
「ねえ…芹霞、おいで…?」
目の前にいる玲くんは誰?
確かに、櫂の手の中に居た…真実の肉体を持つ玲くんは、誰?