シンデレラに玻璃の星冠をⅠ


俺の存在は…芹霞よりも小さいものなのか?


それは芹霞に対するような、恋愛の情ではないけれど、俺だって玲のことは好きで大切な存在で。


それは――

まるで伝わっていないのか?


伝わっていないのだろう。


玲の影(シャドウ)には、誰の声も届いていない。


何も――

判っちゃいない。


ここにいるのは、妙に大人びて聞分けのいい玲ではなく、

否定されることで癇癪を起こし、すぐ絶望に走る…"子供"の玲で。


酷く…哀しかった。


そんな時、重苦しい音が響いた。



「な、何…このゴゴゴゴっていう音は…」


遠坂の怯えた声に、芹霞の顔も引き攣って。


「あ、あの…黒い壁から…聞こえてくるよね」


やばい。


ここから逃げないとやばい。


これは玲の…狂気だ。


母親という名の狂気が、さらに玲を壊そうと押し寄せてくる。


俺だけではなく…

芹霞と遠坂を巻き込んで。


玲は…全ての狂気を解放しようとしている。


玲の領域でそれが解放されれば、一体どうなる?



「母さん…来てよ。


――"僕"の元へ…」



来る――


「ひいいいいッッ!!? 何か来る、何か来る!!! か、神崎、何だよあの黒い影!!!」


「手!!? 手じゃない、あのウネウネしてるの!!! 何かおいでおいでしているように見えない!!!?」



狂気が…やがて母親の姿となって。


かつて俺を殺そうとした…玲が嫌っていた母親の姿となって。



「さあ…"僕"を…愛して…?」



そう――

両腕を広げた時だった。






「させやしねえよ。


――約束、したじゃねえか、玲」




橙色が…視界に飛び込んできたのは。


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