シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「私が安心出来ない限り、紫堂櫂だけではなくあの女の行く末も真っ暗よ。だけどまあ…紫堂の次期当主の愛人にでもなれれば、それなりにいい目は見れるんじゃない?」
高笑いを始めた女を目の前に、僕は…声すら掠れて出てこなかった。
「救うのは簡単なのにね。こんなにも私が約束しているのに。提案してあげたのに。私を抱けば、助けて上げるって。玲さん、ハジメテなわけでもないんでしょう?」
寄越される意味ありげな流し目に、胸悪くなる。
動けよ。
笑えよ。
言えよ。
心を隠して、仮面をつけるのは、お手の物だろう?
だけど僕は動かなくて。
――救うのは簡単なのにね。
動けないんだ!!!
心と体が乖離する。
自分で統制が出来ない。
嫌だ嫌だと拒絶する心が、僕の命令を無視する。
「貴方が、紫堂櫂を殺し、あの女を穢すのよ。
自分の…ちっぽけなプライドの為に」
何で――動かないんだよ!!!?
その煩悶は…能動的な狂気を目覚めさせる。
――レイ。
ああ、来るな。
――ワタシノカワイイレイ。
お前が出てくる場面じゃないだろう!!?
「…そういうこと」
僕の様子に、女は冷ややかに笑った。
「ねえ玲さん。貴方の心って何処にあるの?」
僕は訝った。
「肉体の中? それとも意識の中?」
女は愉快そうな…高慢にも思える顔つきで。
「貴方の心には…狂気があるのね」
そう言った。