シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
それは一瞬のことだったけれど。
誰が一番衝撃を受けたのか判らない。
見ている人間?
された人間?
した人間?
隣の由香ちゃんは「腐もいいかな…」とか、焦点の合わない目でぶつぶつ呟き続け、
遠くの煌は…ムンクの叫び状態で凍り付き。
目の前では――
顔を顰めさせてお互いそっぽを向き、げほげほ変な咳を繰り返して、唇をごしごしと擦る…まるで同じ動きをする、仲良い紫堂の従兄弟同士がいる。
「な、何するんだよ、お前!!!」
先に声を発したのは玲くんで、鳶色の瞳が潤んでいる。
「その体で俺の目の前で二度も芹霞に口付けたんだ!!! 最後ぐらいは無効にしろッッ!!!」
原因を作った漆黒の瞳も潤んでいる。
嫌なら…しなきゃいいのに。
頭のいい男の考えることは、難しくてよく判らない。
「二度って言っても、意識ない間の"一度"じゃないか!! ああ、くそっ!!!」
「贅沢なんだよ、お前は!! もっと強烈なのぶちかまそうかとも思ったけど、それくらいですんだんだから感謝しろよッッ!!!」
本当に嫌そうだ。
あんなに擦ったら、2人とも…タラコになっちゃうよ?
ああ、だけど…傍観者すら、消したくても消せない記憶。
みちゃった…。
禁断の…"お色気カズン"のキス…。
「櫂、皆を見ろよ、引いちゃってるじゃないか!!!」
「そんなこと知るか!!」
呆然唖然としているあたし達の前で、理不尽にも思える程、他人事のように怒鳴った櫂は、
「これで、"感触"は完全に消えたな?」
突如落ち着いた声を出して。
「お前が無理矢理消したんだろう!!?」
「芹霞とじゃない。あの女との、だ」
顎で、煌の足下でに転がる蓑虫"エディター"を促した。