シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「迂闊に動けねえんだよ、動いたら…芹霞が危なくて」
しゃがみ込んだ態勢の煌は、胸に片手で芹霞さんを抱いていて。
煌はかなり緊張した空気を漂わせてはいるが、とりあえずもぞもぞと芹霞さんが動いたのを見れば、彼女は無事のようで。
私はほっと息をついた。
「相手が見えねえから防戦一方だ。結界が効いているのか、標的に免れているだけなのかよく判らねえ。これで敵の素早さが凄く高ければ、見えねえ分…更に俺には分が悪い。だから桜を呼び出したんだ」
「見えない…?」
櫂様は怜悧な瞳に、剣呑な光を宿しながら、煌の腕の中から芹霞さんを持ち上げるようにして、自分の胸に抱いた。
「か、櫂…櫂、蝶々が…突然女の子の眼球を…ふ、ふえっ」
櫂様を見て、緊張が緩んだのか。
「煌には蝶々が…ふええん、何で見えないのよ馬鹿ワンコ!!!」
「ああ、悪い悪い。見えない俺が悪い。だけど。先刻から何回も言うように…俺はワンコじゃねえから」
半分自棄になった口調で言い捨てながら、私と目を合わせると…バツが悪そうに俯き加減で頭を掻いた。
軽率な行動を、一応は悔いてはいるらしい。
「芹霞だけが見える"黄色い蝶"が、制服の女達を襲ってこの有様だ。俺にも他の奴にも見えねえ。そんなことより。感じねえか」
警戒に満ちた低い声に。
何か――
嫌な視線を感じる。
私が目を細めて顔を空に向けるのと、櫂様も緊張した面持ちを上に上げたのがほぼ同時で、そして私達の視線は同じ1点で止まった。
「!!!」
こちらに向かわれている――
汗が噴き出るような凶々しい気配。
円筒状の建物の上。
確かに居る。
ああ、見間違いではない。
「黄色い…外套男!!?」
櫂様が舌打ちする。
太陽が照りつける、しかもこんな人が多い場所に!!