桜風 〜春の雪〜
お婆ちゃんの名前は…

確か…加代さん。

加代さんと肇さんは……

ある日…

この桜の前で出会って…

恋に落ちたんだって。


時は戦争の真っ直中だった。


若い少年が…

当たり前のように

国に命を差し出してしまう時代――


肇さんも…

間もなくして、戦いの部隊へと召集されたんだ。


そして…

最後の夜………


こっそりと

家を抜け出した二人は……


この場所で……


ある約束を交わした…。



"必ず生きて返るから、また…ここで会おう…。"


って………。



その日以来………

加代さんはこの場所に…
毎日、毎日通い続けたんだって……。



毎日、毎日……


ここで………

愛する人の無事を祈り続けたの…。




戦争が終わって…

幾度となく落とされた

爆弾によって…

肇さんの家も

加代さんの家も

街全体が…崩壊してしまった……


でも…この桜は…

この場所に…

立ち続けた…。



加代さんは…

最後に教えてくれたんだ……。



「彼は…花守になって…今でも私を見守っていてくれるの…。」



「花守…?」


「桜を守る番人。
姿は見えないけれど…彼は…大切な思い出や、約束を…ずっとここで守ってくれてるの。」



そう語ったお婆ちゃんのしわくちゃの横顔は…

凛としてとても美しく…

少女のように、恋する瞳は…

とても…

かわいらしかった。





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