桜風 〜春の雪〜
真っ白な壁に……

白いベッド……


優しいアイボリーで統一された

カーテンや、棚……


個室なせいもあって、この部屋は……

春雪で溢れてる……。






部屋を一周見回したあたしは……


一歩一歩……


春雪の方へ歩み寄る……


ベッドから体を起こした
春雪は………

冷ややかな目で

あたしを見つめていた……。


「ごめん……春雪…無理しないでいいから…。」

額に滲む異様な汗と……

肌で感じる

春雪の…隠しきれない……苦痛……



あたしは…

目を覆いそうになったけれど、春雪をじっと見つめて


駆け寄って…手を差し出す…



「やめろよ!」



突然張り上げられた

春雪の熱い声

振り払われた

あたしの手は…………



空を切って………


行き場をなくした……。



「春…雪…?」


再び瞳から

溢れ出した涙は……


白いビニールの床に弾かれて…

無数のみずたまをつくっている…



「…そういうの…ウザいんだよ。お前…彼女でも何でもないだろ!もう…二度と来るな。」


力無い罵声が、狭い室内に響いた…。


「…春…雪……あたし…あたし……!」


「もう、早く消えてくれ!!」





再度あたしに向けて発せられた

怒りにも似た…春雪の叫び……


あたしは…



この部屋から逃げ出した。



あんなに会いたかった……

春雪の前から……

逃げ出したんだ……。




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