桜風 〜春の雪〜

温かいココアを両手で包み込む………。

ここは

4階のエレベーター前にある休憩スペース


春雪によく似た

お母さんの優しい眼差しは

高ぶった心の波を

優しく包んでくれて……
あたしは……

次第に

落ち着きを取り戻すことができた。



「花梨ちゃん…?…で…よかったかしら?」



「は…はい。」


「やっぱり!とても可愛らしい子で嬉しいわ…。」



え…なんで…

あたしの名前…?



お母さんは…嬉しそうに微笑みながら

話を続けた……



「あの子…春雪はね、無愛想だけど、昔からお婆ちゃん子でね…。
嬉しそうにあなたの話をしてるの……聞いたことがあるの。」



「え…あたしの話を?」



お母さんは

戸惑いを隠せずにいるあたしに構わずに

話を続けた………。

穏やかな声で…

大切に、思い出をたぐり寄せながら……

春雪が子供の頃の話

テーブルから落ちて怪我をしたことや…

お泊まり保育で泣いて帰ってきたこと…


次々と…あたしへと

伝えられる…

大切な思い出は…


いつしか、この狭い空間を

甦る春雪の笑顔で

明るく照らし出していた。



春雪の思い出……

頭に浮かぶ、小さな春雪は…

あたしに…無数の幸せを運んでくれた……


たぶん…

お母さんも…

同じ気持ちだよね……。


嬉しそうに微笑みながら……

春雪を思い出すお母さんの顔は……


とても幸せそう……

春雪が…

沢山の愛情を受けて…

幸せに生きてきたこと…

それを感じながら……

あたしは…

お礼に、学校での彼のことを話し始めた。






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