桜風 〜春の雪〜
「花梨ちゃん…私ね……」
時はたつのが早い……
窓から見える空には…
半分に欠けた月と
幾つかの星が輝いている…。
「私ね……春雪の為に…何がしてあげられるのか…まだ…よくわからないの。」
現実に戻ったお母さんは…
言葉を詰まらせながら…
慎重に口を開く………。
さっきまでの笑顔は消えているけど……
運命を受け入れた
強い女性の顔つき……
それを見たら……
感情を剥き出しにして
春雪を困らせることしかできなかった自分が…
凄く……
情けなく……
恥ずかしい……。
「お母さん……申し訳ありませんでした。」
しばらく続いた沈黙を破ったのは…
あたしの方だった…。
「あたし…会いたくて、会いたくて…ただそれだけで……。隠し通そうとした春雪の気持ち……全然わかってなかったんです……。」
一番辛いのは………
春雪なのに…。
春雪は…自分の事より、あたしが…辛くならないようにって……
考えてくれた……。
あたしは…春雪に……
何がしてあげられるだろう…?
思いを伝えるよりも…
ずっとそばで生きてゆくかわりに………
あたしは…もう
…泣かなかった。
お母さんは…満足げに
微笑むと……
"幸せになりなさい。"
って…
最後に言った……。
それは……
もう…ここへは……来てはいけない……
って意味…。
あたしは…
その言葉を噛みしめながら…
「幸せになります。……でも…春雪のこと…忘れませんから。」
そう言って
何メートルか先にいる
春雪に背を向けた……。
サヨナラのかわりに……
心の中で
アイシテル
って呟いて………。
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