桜風 〜春の雪〜
「オイ!人のことからかう元気あるなら、さっさと帰るぞ。
送ってやるから!」


「えっ…」


思いも寄らないぶっきらぼうだけど…

優しい言葉に

あたしは……

拍子抜けして彼を見上げた…


森定くんは、ベッドの横に置いてあるあたしのカバンを右手で持ち上げると――


ドアの方を向いたまま…
未だに放心状態になっているあたしに――


左手を差し出した……。


トクン

心臓が一度だけ大きく飛び跳ねて……


波が静まる……


差し出された彼の手を握ると


決して寒かったわけではないのに……

不思議と心地良い温かな空気に包まれたような気がした。


トクン・トクン


いつもと変わらないリズムを打つ

あたしの心臓……。


隣に見上げた森定くんは…

さっきよりも赤くなっていて

あたしは


初めて彼に出会ったような気がした。


桜の咲く季節みたいな……

甘くて優しい空気……

あたしは、それに包まれて心地よく深呼吸をした……。





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