桜風 〜春の雪〜
なんだか……

今日は悪い一日じゃなかったな!

赤というよりも、金色に近い夕陽を見ていた……

苦手だった森定くんの

可愛い一面も発見出来たし…

たまには貧血で倒れるのも悪くない……。


ん………?

そう言えば……何であたし倒れたんだっけ……?


「あ゛…!!!」


さっきまでルンルン気分で歩いていたあたしは、勢いよくその場に立ち止まった。


「アユミとサンセット行く約束してたのにぃ〜!!」


突然、脳裏に蘇ったアユミとの約束…。


「プクククク……!」


へ…?


思考を遮る、生暖かい笑い声……

あたしは、変な笑い声の主を見上げた


「おまえ、今頃気づいたのかよ!
片桐さんならおまえをよろしくって言って先帰ったよ…!」


えぇ!!


片桐さんってのは、アユミの事。

美人で近寄りがたい雰囲気を持っている彼女のことを……

男子は大抵"さん"付けで呼ぶんだ。


「そう言えば…おまえ、寝言で焼きそばなんとか…って言ってたよ…!!」

ウソ!超ハズイじゃん!!

あたしは、急に恥ずかしくなって

地面を睨みつけた……。
ん……

ヒンヤリとしたアスファルトの冷静な姿が、あたしにまた一つ、疑問を投げかける……


「って言うか……さっきから人のことおまえ、おまえって〜!!さん付けで呼びなさいよぉ!!」


貧血から目覚めてから、何か引っかかっていた違和感にやっと気づいたあたしは――

森定君をキッって睨みつけた。


「プクククク…」

よっぽどツボに入ってしまったのか

彼は笑いを必死にこらえながら


「じゃあ、呼び方考えとくよ…。」


って笑って見せた。


もう……

これじゃあ……

怒れないじゃん!



なんか、森定君の笑顔って不思議……


いつも無愛想なせいか、笑うとたまらなく可愛く思える。


あたしは、そのギャップと心をくすぐる笑顔に、ちょっとだけドキドキしている自分に気づいて、彼を見上げた…。




.
< 19 / 204 >

この作品をシェア

pagetop