桜風 〜春の雪〜

「あたし……まだ…春雪のこと……」


言いかけたあたしの唇を、一馬の手が制した。


「忘れる必要なんて……ないよ。」


一馬の言葉が、あたしの思い出を優しく包み込んで

胸が熱くなる……


「俺も、忘れない。春雪の思い出を、2人で大事にしていこう?」



月明かりが、一馬の瞳を照らし出す……。


あの日の一馬と……

同じ目……


卒業式の日……

独りでこの場所に立っていた時と……


同じ……


深い……深い……


愛情のこもった……


優しくて何よりもたくましい一馬の瞳……


新たな幸せの始まりに、吸い込まれていくあたしがいた……。



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