桜風 〜春の雪〜

怖かったの。


この気持ちを認めてしまったら…

あたしの中から、春雪が消えてしまうんじゃないかって………


恋に臆病なのは、昔から変わらないね…。

ちっとも成長しないあたしの心…。


「一馬……あたし…一馬が………好き……。」



零れ落ちた涙は、きらきら光って透明だった…。

好きって言葉……。


あたしが、愛する人を前にして、初めて口にする愛の言葉…。


一馬の顔に、大好きな笑顔が広がっていく……。

「本当に…?」

見開いた一馬のまっすぐな瞳が、幸せにあふれた…。

「本当だよ…。あたしの中に……いつの間にか一馬がいたの。」


溢れ出す……封印してきた思い……。



一馬…泣いてる……?


頬を伝う雫が

キラリと光った……


一馬のこぼした涙も……
あたしの……この思いも……


包まれる神聖な空気に溶けて……


この場所の新たな思い出となる……。



「一馬……。あたし…春雪を忘れない。それでも…一馬を愛してるから…幸せにして……?」



「ばーか。当たり前だよ…。」



煌めいた一馬の笑顔が


あたしの恋を加速させた……。


あたしは、一馬に幸せをあげたい…。


それが、あたしの幸せなんだ…。


幼くて弱虫だったあたしは、ようやく人を愛する気持ちの強さを知ったんだ…。



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