桜風 〜春の雪〜
「うーん……――――」

あたしは

バスの窓際に座ると、縁に肘を引っ掛けて

見慣れた学校の校庭を、ぼんやり見ていた。



あの日……

あの桜の木の下を……


春雪と手をつないで歩いたんだ………。

花が散ってしまったのを、残念そうに見上げる春雪の顔が思い浮かんで、一瞬ドキッとした……。


あの時、

彼はどんな気持ちで

あたしに手を差し出したんだろう…?


アユミの言うとおり……

あたしの事……

好き

って気持ちが…彼の中にあるんだろうか?


その手を拒まなかった


あたしをどう思った……?


そして何よりも――

あの時に感じた

暖かい気持ち……


もしかして、

もしかすると……


あたし―――

彼に恋をしたの…?

あたしは黙って……

自分自身に問いかけた―――。



窓の外では……

浮き足立つ生徒を乗せたバスが

順番に出発しているところだ…。



うちのクラスは……

まだ数名トイレから戻ってない生徒がいるらしく
先生はイライラを隠せない様子で

バスの搭乗口で足踏みをしている。



それをよそ目に

あたしの眺めている窓際を次々とバスが横切っていく――――


ドキンッ


あたしの心臓が

大きく跳ね上がるのと同時に…

女子達が、一斉に窓の外に注目する――――。


特進のバスが隣を通過するからだ。



あの人を乗せたバスは

見せつけるようにゆっくりと……

あたしの視界を遮った……

ドキンッドキンッ…

あたしは無意識に

あの人の姿を探す自分に気づいた……


さっきまでとは明らかに違う血液の流れ……


荒ぶる心臓の音は、まるで耳の中で鳴り響いてるかのように、鼓膜を揺らす……





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