桜風 〜春の雪〜
そうだよ……


あたし――


彼が好きだったんだ……。



親友を裏切ってしまうほど……

好きだった…。


苦しくて

苦しくて…

でも……

姿を見るだけで、ドキドキして

倒れてしまいそうになる程……

あたしの胸は…ときめいてた……。


あたしは自分の左胸に手をのせた。


ドキンッドキンッ


強い鼓動で

手の甲も一緒にリズムを刻んでいる……。


窓の外に残された、彼の冷ややかで凛とした瞳が、

"お前が好きなのは誰だっけ?"

そう問いかけてくるように、細く微笑んだ。


あたしが春雪を好き…?

ううん…!!


あたしは

大きく首を横に振って、自分に確かめる。


「あたしは……
好きじゃないよ…。」



自分自身に言い聞かせるように、あたしは喉を震わす……


低くて、アユミにしか聞こえない声…


言葉が口から離れた後、空っぽになった心に、虚しさだけが残った……。





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