桜風 〜春の雪〜

一番後ろの長い座席に、拳3個分程開けて座る。

ドキン…ドキン――

あたしの心臓は一向に治まる事無く

彼を発見した瞬間から…
激しく動き続けていた。


「…ちゃん…花梨ちゃん…?」

「あ、ハイ!!」

クスクス

「なんか…
話すの久しぶりだし緊張してる?」

蓮君は、いつものようにあたしに笑いかけた

甘くて、綿菓子みたいな蓮君の匂い……。

その割に、切れ長の凛とした瞳は、笑っていてもどこか冷たさを残しているようで……

完璧な美しさを彼は放って笑う。


「な…なんか、本当に久しぶりだね。
アユミ、アユミとはうまくいってる?」


あ〜もう
いっぱいいっぱいだよ!

やっとの思いで発せられたあたしの言葉を蓮君は軽く受け流して

また、あたしの方へ視線を向けた……。

な、なんか変だったかな…?

こんな事なら、バス停でメイクとか髪とかチェックしとくんだった!

蓮君に見られていると思うだけで

こんなにも…
平常心を失ってしまうなんて…

あたしは、いったい彼にどう思われたいんだろう…?

アユミの…

彼氏なのに…

そう―――

隣にいるのは

アユミの彼氏、なんだ……

あたしは、そう思い直すと

まだ少しだけ髪型を気にしながら

学校に着くまで、アユミの話ばっかりした。



途中…
蓮君はあたしの話ばっかり振ってきたけど

あたしは、そんなのお構いなしで

アユミの事だけ

話すことにした。


全てを見透かしたような蓮くんの冷たい瞳が、とても居心地が悪くて……

あたしは、蓮くんを見たいのに、見ることができなかった…。




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