桜風 〜春の雪〜
「―…ま!相馬!
ちゃんと反省してるのか―?」
「は…ハイ!
これからはちゃんとしますからぁ〜!!」
あたしは、必死の形相で先生からの許しを得ると
一目散に廊下へと駆け出した。
目にはうっすらと浮かぶ涙……
外は相変わらず春の風が、そよそよと吹いている様子で、ユラユラと気持ちよさそうに揺れる生まれたての葉っぱ達は
あたしを甘い世界へと誘い込んで行くよう…
いつしか……
あたしは…
涙の意味を忘れていった……。
図書室は旧校舎にあるから、ここからはかなり離れているんだ。
あたしは薄暗く、静まり返る廊下を走り抜た。
後ろからは妙に軽快な自分の足音が
あたしの体を止めようと……
追いかけてくる…
それを振り切るように、あたしは……必死で走って、古びた旧校舎の図書室の前に立っていた。
ドッドッドッドッ……
1回の鼓動が聞き取れないほど
荒く波打つ―――…
足元がおぼつかないほど、視界がぐらぐらと揺れる……
"本当にいいの……?"
あたしの代わりに、ユラユラとそよぐ風が
心の声を必死に問いかけたけれど
落ち着かなくちゃ…
自分に言い聞かせて、乱れた髪を整えると
それが、少しだけ治まってきたような気がした……。
静まりかけた波の代わりに…
トキンッ!
って突き刺さるような痛みを帯びた鼓動が走る……
来ちゃった。
ねぇ。蓮君…。
あなたとの距離は……
あと何メートル?
ガラガラ…………
建て付けの良くないドアを、出来るだけ静かに開け放って
あたしは
彼との距離を少しずつ…短くしていく…
一歩一歩近づく度に……
心にはさっきの痛みが、小さな針となって突き刺さっていった。
蓮君……。
あなたを見てるだけで
痛みなんて忘れてしまうよ。
全ての感覚が麻痺したあたしは一歩ずつ……
甘い罠に
吸い込まれていった……。
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