桜風 〜春の雪〜
本当に、こういうところは自分でも嫌になる…。
口下手で、応用力のない頭…。

もっと、上手くできれば…

彼氏ができて、いつまでも過去に縛られずにいられるんだろう…。

そう思うと、自然と瞳に涙が浮かんできた…。

…………

「行こ…?」


「へ…??」

耳元で低く振動する声に顔を上げる…


か、一馬くん?

彼はにこやかに微笑んで、あたしの右手をとると…部屋の外へと導いた…――


ガラガラと横開きの木の扉を開ける……

あたしの目に、ドアップの一馬くんの顔が映し出される


「なんで…――?」


何が起きてるのか未だに理解できずに

呆然と立ち尽くすあたしに


「自販機、行くんでしょ?……心配しなくても…森定なら意外に空気読む奴だから〜♪」


一馬くんは、あたしの目尻を指で軽く拭って、舌を出して笑っていた…。

「え…気づいてたの!?」
「普通、気づくでしょ〜♪高橋いい奴だし…今日も3人の中で誰がタイプ?って話してたら理恵ちゃんだって言ってたから…できちゃうかもね♪」

一馬くんは…

すらすらと話し出す……。

「本当に〜?良かったぁ!……って3人って…うちらのこと?」


急に恥ずかしくなって、あたしは耳にかけていた髪をおろして、床を見つめた…。


一馬くんは、そんなあたしに、計算できない女の子の方が俺はいいと思うよ…?

そう一言付け足して、薄暗い廊下を後ろ向きになって、あたしの方を見ながらゆっくりと歩いていった…。


自販機はロビーにある。
そこまでゆっくり時間をかけて、階段を降りながら……

一馬くんはいろんな事を話してくれた。


「一番人気は…アユミちゃんだったかな。」


人気投票の結果を内緒で教えてくれた彼は、あたしに合わせて、ゆっくりと前に進む……


「一番人気ってことは、高橋君以外はみんなアユミじゃん!ひっどいなぁ〜。」


安心しているのか、あたしの声も次第に弾んでいた。


「…違うって!……花梨ちゃんにも1票入ってるよ…?」




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