桜風 〜春の雪〜
「クスクス その1票…――誰だと思う??」

一馬くんは、あたしの心を見透かしたみたいに、赤くなった顔を覗き込む……


ドキン ドキン…

次第に荒く波打つ鼓動に息を詰まらせながら


「誰??」

って…

勇気を振り絞って聞いてみた。


春雪…?

春雪なのかな…?

心の制御不能な部分で、なぜだか…

その1票が

春雪からでありますように………

って祈っていた…――



「あ…やっぱり…秘密にしとくよ。」

そんなあたしに気づいて、一馬くんが必死で話題をすり替えた…。


「えぇ!ずるい!!」


「だって、期待通りじゃなかったら…へこむじゃん?…でもさ…………ホントの一番人気は…花梨ちゃんだと思うよ…。」


え……それって、どういう意味…?



その言葉の真意を、聞きたいって思ったけれど……

真剣な彼の目が怖くて…
あたし達は、沈黙のまま
薄暗いロビーにまぶしい光を放つ、販売機の横のソファーに腰掛けた。



「………さっきの事…聞かないの?」

静寂を破ったのは、一馬くん……


「あたし、何でも白黒付けたがっちゃうっていうか……でも…、聞かない方が良いのかなって…思っちゃって……。
何でだろ…変だね…。」
あたしは、彼の瞳を見ることが出来ないまま、淡い光を見つめていた…。

「そっか…せっかく意味深に言ったのに…残念!」


「??」


「…俺、そろそろ部屋戻ってみるわ!あいつ等のことも気になるし〜。」

一馬くんの言葉の意味も、寂しげな瞳の色も……

あたしには、ピンとこなくて、ただ彼の手の動きを見ていた

「うん…なんか…ありがとね。」


段々小さくなって、暗闇に消えてゆく一馬くんの後ろ姿…

目で追っていた、彼の手の動きは一瞬で暗闇に飲み込まれて……

あたしは、霧のかかった心で…

彼の背中をぼーっと見つめた……


聞かない方がいい気がした訳じゃない……

何か聞いてしまったら

それを受け止めなきゃならない……

一馬くんが何を言いたかったのかは、わからないけど……

あたしは、見えない何かから逃げ出したんだ…。




.
< 50 / 204 >

この作品をシェア

pagetop