桜風 〜春の雪〜
………
………――――

「どういうこと……?」

凛と静まり返ったロビーに………

絶望的な…

声が響いた……。


それまで、あたしの体をねじ伏せていた力は………

一気に緩んで



カツカツと近づいてくる…

苛立ちのこもった乱暴な足音の方に

あたしのささやかな息づかいも、絶望に浸る間のない戸惑いの瞳も


吸い込まれていく……



「…アユミ……!」



あたしは、彼に乱された服を胸の辺りでおさえながら

彼女の次の反応を待った……。



彼女は…

あたしの姿に目をしかめると……

"信じてたのに…。"



って…


一言だけ残して…


暗闇の中へと

荒い足音のまま

消えていった……。


アユミ…

待って…

ゴメンナサイ…

ゴメンナサイ…


あたしの声は

届くはずもなく…

いつの間にか

また…

ひとりぼっちになってしまった…

声も出せないまま

ただ…流れ出てくる涙が……


床に水溜まりを作るのを
ゆがんだ世界で

見つめていた……。







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