桜風 〜春の雪〜

壊れた玩具みたいに、無数にある言葉の中の一つが何度も口からこぼれ落ちる…

そんな、聞き手のいない疑問しか、口に出来ないあたし……


一馬は手を引いて、裏庭へと連れ出してくれた。


久しぶりにサッカー部に参加していたんだろう…


一馬は汚れたジャージ姿のままだった。


そのお陰で、いち早く一馬によって発見されたあたしは

あまり人目に付くことなく

裏庭へと逃げることが出来た。



「寒くない?」


裏庭のベンチにあたしを座らせると

一馬は大きく膨らんだスポーツバックから蹴球部とプリンとされたジャージを取り出して


あたしの肩に掛けてくれた。


冷えた肩に伝わる、大きめの上着の感触が

あの日……

春雪がくれた感覚を甦えさせる……



夕方みたいに

薄暗い世界……

空を見上げると

分厚い雲が

太陽に覆い被さっている

雨…

ちがう…

雨が降り出したみたいに

瞳から……

次々とこぼれ落ちる涙……


涙は頬を伝って

制服の首もとに

大きな跡をつくっていった……。




そんな…

あたしを……


一馬は…何も言わずに、側で見守ってくれていた。



凄く……

切ない顔をして…

一馬もまた…

今にも壊れてしまいそうな

儚い涙を

うっすらと

瞳に浮かべていた…。





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