桜風 〜春の雪〜
一馬の話によると…

あの懇親旅行から何日か後…


春雪は…強い頭痛や吐き気に襲われて学校を休んだらしい。


それから………

その時が来るまでは

そう時間がかからなかった。


帰りに彼の自宅に寄った一馬は

部屋で倒れている彼を見つけて

病院へと――――



それ以来…

春雪は……

入院しているんだ。


あの日……

朝早くに偶然、あたしと鉢合わせしたのは

退学の手続きと、荷物の整理は…

自分でやりたいって――

春雪の唯一の願いだったらしい……。



春雪は…

何度も見舞いに訪れていた一馬にだけに…

真実と……

願いを伝えたんだ。


それは…きっと

幼なじみで、ずっと一緒に生きてきた……

一馬を信頼して……。

壊れることのない、親友の証として…


自分の脳には

腫瘍が出来ているのだと…。

手術の出来ない場所にあるために、痛みを押さえながら…

死を待つしかできないのだと………。



時期に視力を失うかもしれない…

もしかしたら、記憶を失うかもしれない…

体の自由を失うかもしれない………



絶望的な現実を前に

呆然と立ち尽くすしかできなかった一馬に

最後に春雪は言った…



"花梨には絶対知らせないで。
俺は…花梨の中に辛い記憶を残したくないんだ…。


一馬…ゴメンナ…"





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