【完】お隣さんは同級生〜一人暮らしの2人〜㊤
女の顔は見えないけど、腕に絡みつくその子はじゃあと告げて踵を返してこの場から去っていった。
そのまま奴に近付き声を掛ける。
「…おい」
「…あ?………何、ですか?」
発した声は思った以上に低かった。
初対面にも関わらず突っかかる俺に不機嫌そうに返事をしたけれど、ネクタイの色を見て年上だと判断したのか敬語になった。
「いい身分だよなぁ?」
「…何の話…ですか?」
その顔を見ていると殴りたくなる。あんな純粋な子を泣かせてんじゃねぇよ。
すました榎並柾樹にイライラが募る。
「……彩音、泣かせてんじゃねぇよ」
「あ?」
そのセリフに片眉を跳ね上げて睨む目の前の奴は、キレイなだけあって威圧感がハンパない。
でもそんな事で怯む俺じゃない。生憎腹の虫の居所は悪いんだよ。
「今度泣かせたら俺がもらうからな」
負けじと睨み付けてさっさとその場を後にした。
自分が彼女の事を何と言ったか気付かずに。