感想ノート

  • 「その茶髪目立つし。
    ねえ…すごく迷惑なんだけど。
    昨日からなんなの?自分の事しか考えてないわけ?」

    「何だよ、昨日はあんなに快くほうじ茶シュークリームくれたのに。それに髪は地毛、人を髪の色で判断すんなよ」

     誰がいつそんなこと言った、と頭にきた。
    昨日だってわたしはずっと機嫌が悪かった。
    髪の色だって目立つと言っただけで、性格を判断した覚えはない。
    正直、黒髪だろうが金髪だろうがボウズだろうがどうでもいいのだ。
    友達があんたに片思いしている、しかも、そういう子が学校中にいるらしい。
    だったらわたしにとって一番の疫病神だ、相澤走はという人間は。
     今は家のことと自分のことで精一杯。
    余計な恨みや嫉妬なんかを買って面倒事に巻き込まれるなんてごめんだ。

     腹が立つ。
    人が必死になってやってるのに、どうしてこの人はこうも鈍感なんだろう。
    今すぐ怒鳴りつけてここから出ていってもらいたい。

    「昨日はこっちの都合でたまたまそういうことになっただけ」

    険のある言い方にはなったけど、結局声は荒げなかった。
    表情も真顔のまま崩れていないはずだ。

    朝都 2012/01/19 17:33

  • 他人に見られながらの作業というものはやりにくくて仕方がない。
    いい加減課題に取り組めばいいのに。
     油採用の平筆をキャンゾールにつけて、さあ塗ってしまおうと筆を持ち上げたところで、またしても相澤に、差し止められてしまう。

    「俺さ、陸上部なんだけど…
    今度良かったら、俺の走っている絵描いてよ」

     声色に困惑が混じっている。
    無理して話題を探したのがバレバレだ。

     絵を描いてくれなんて今までだって腐るほど言われてきた。
    自分で言うのはアレだけど、周りの人間より、多少絵が上手いというのは、もちろん自覚している。
    才能があると言われてきたし、中学のころから全国レベルで実績も残してきている。
    でもそれを安売りしたことはないし、したくない。
    だから半分廃部状態の美術部しかない坂高に、来たのだ。
    それもセンちゃん先生の勧めで。

     陸上のことなんて全く分からないけど、才能もセンスもない人間が努力だけで上に上がれるほど甘くないはずだ。
    相澤は陸上部のエースとも、実力も全国でトップクラスとも聞いていたから、少なからず、天才型だと思っていた。
    そういう人にまで、今までと同じようなことを言われるとは思っていなかっただけに、ますます相澤の無神経さに落胆してしまう。
    相澤だって、陸上をやるのは自分のためだろう。
    見ず知らずの人のために陸上をやっているはずがない。

    「…相澤君でしょ?」

    「えっ、そうだけど、どうして俺の名前知ってるの」

     白々しい。
    もし本当に自覚してないのなら、今すぐ「あんた有名人なのよ?」と言ってやりたい。
    自分と立ち位置も、周りの気持ちも迷惑も考えない。
    わたしはこういう人、大嫌いだ。

    朝都 2012/01/19 17:33

  • 以下下書きです

     美術室に相澤がいるという状況が咄嗟に理解できなくて、準備室から戻ったわたしは、戸口に突っ立っていた。

    「あっ」

    わたしの存在に気づいて声をあげた相澤に、現実に引き戻されたような気がした。
    目眩がする。
    相澤が手にしている画用紙を見て、事態は大体悟った。
    先週提出の課題の“手”の鉛筆デッサン。
    真っ白な画用紙は鉛筆の跡すらない。
    絵具も持っているから、課題の趣旨も理解していないのかもしれない。

    「昨日の…うちの高校だったんだ」

    相澤の呟きは聞こえなかったことにして、軽い会釈だけに留め、無言のまま移動して絵の前に座った。
    大方センちゃん先生に呼び出されたのだろう。
    関わらないのが無難。
    でなければ昨日の苦労が無駄になる。

    「あっ、その絵、君の絵なの」

    もう放っておいてほしい、と切実に思う。
    用事がないならわたしに関わらないで、とも。
    精一杯の皮肉を込めて言い放った。

    「だったら、何?」

    「いや、その…上手いなって。
    俺、美術室に入った瞬間に目に入って、感動したというか惹き付けられたというか、とにかくすげえなって思った」

    相澤は悪気はない。
    そんなのわかっている。
    でもありふれたお世辞にはうんざりだった。

    「そう。ありがと」

    塗り潰し用の下地材に選んだキャンゾールの缶を開け、適当に空き瓶に流し込む。

    はっきり言って失敗作なのだ、この絵は。
    だから今から塗りつぶしてしまう。

    「昨日はありがとう。
    おかげでほうじ茶シュークリーム食べれたよ。
    美味しかったよね」

    正直こっちはそれどころじゃなかった、なんてもちろん言わない。
    張り合うなんて、幼稚園児みたいだ。
    冷静になるように自分に言い聞かせて、愛想笑いでごまかした。
    こういう妙に器用なことは得意なのだ、意外と。

    「甘さ控えめだったけどね」

    さっさとその課題を終わらせて出ていってほしい。
    本当に言いたいことはそれだけだ。

    朝都 2012/01/19 17:29

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