雪中恋心

それからまた数週間経った頃。
私は彼に、プライベートでは「りゅう」ではなく「けい」と呼んでいいかと尋ねた。


『わ、それ…すごくうれしいかも』

「ほんと?」

『僕、ニックネームで呼ばれたことないんだ。』

「そうなの?」

『うん。今もそうだけど、学生のときは基本的に苗字呼びだったし、仲良いやつも「圭佑」って呼び捨て。』

「じゃあ「圭佑」って呼んだほうがいいかな?」

『うーん…あいこさんには、ニックネームで呼んでもらったほうが嬉しい。』

「そう?」

『…僕自分の名前嫌いだから、さ』


苦笑。


「どうして?いい名前なのに」

『学生の頃さ、同じ「圭佑」って名前のクラスメイトがいたんだ。
かっこいいやつでさ、顔も良いし、頭いいし。
スポーツもできて、人気者だったんだよ。
僕は「佐藤」って呼ばれてたし、「圭佑」って呼ばれても、実感なくて。
…僕の事じゃない気がするんだよね』

「そっか…じゃあ、「けい」だね。」

『うん…えへへ、嬉しいな』


彼は幸せそうに笑った。



そっか、私だけなのか。





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