遠ざかる風景。
「あまり深く考えちゃダメ。私がいて、あなたがいて、偶然同じバス停でバスを待ってた。そして挨拶がきっかけで知り合えた。それだけでいいでしょ?」
 少女の言うことはもっともだった。考えてどうにかなるものでもなかった。少女の微笑に翳が走る。僕にはそれが懇願に見えた。
「そうだね。僕も、君にまた会えた。それだけでいいよな。」
「うん、ありがと。」
 少女の微笑から翳が消えると、何一つ明らかになっていないというのに、僕は全てがこのままでよくなっていた。僕の「記憶の翳」も消えていったからだった。
< 17 / 30 >

この作品をシェア

pagetop