遠ざかる風景。
 僕は2度3度、目をしばたいた。間違いなくあの少女はそこにいた。ただし、あの朝のままの姿、全ての時間の経過を否定した姿で。
 日常の感覚からかけ離れたその光景に、僕は総身の毛が逆立つ思いを味わった。が、同時に少女に接近しようとする僕がいた。音のしそうなほどぎごちない動きで列を離れた僕は、心なしか忍び足になりながら少女に近づいた。そして、思い切って声をかけた。
「やあ、おはよう。」
 少女は軽くびくつくと、僕の方に向き直った。そして驚いたような表情を見せて、そのまま沈黙した。再会に驚いているのかと思ったのだが、どうも様子がおかしい。
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