君がいたから
その少年の視線を感じながら、私はこの建物から出ようとした。
だが、少年がかけてきた予想外の言葉にグッと引きとめられてしまう。
「ミノリちゃん、おいでよ」
「な! なんで私の名前知ってるの?
どこかで会ったことある?」
少年は柔らかい笑みをこぼし、
「ミノリちゃんが小学生の頃に」
と、嬉しそうに言った。
小学生の時?
10年以上も前じゃん。
こんな知り合いいたっけ? ……そんな記憶ないけどな。
一応尋ねてみよう。
「あなたの名前は?」
少年は切なげにまつげを伏せた後で、
「……スズメ」
と、小さな声で答えた。
スズメって、雀(すずめ)?
電線の上とか公園にたくさんいる、あの鳥?
……変わった名前だな。