君がいたから

こんな時、彼氏がいたら抱きしめてもらえるのに。

「お前はよく頑張ってるよ」とか、

「少しは休めよ」とか、

「俺が気晴らしにどこか連れてってやるよ」とか、

甘くて優しいセリフで癒されたりできるのに。

仕事のことしか考えられない不器用な私は、そんな大切な場所もなくしてしまった。

「ミノリの気持ち、分からなくなった」

そう言って離れてゆく彼氏を引き止めることはできなかった。



いつもの帰宅ルート。

まぶしい電灯がついたファンション館が連立する繁華街。

ここは、車が走る音や、ゲームセンターのにぎやかな音楽、埋もれるように行き交う人々の気配でいっぱい。

目に見えない排気ガスにまみれたそんな空間を、いつもよりゆっくりと歩く。

高校生カップルが手をつないで歩いてるのを見て、可愛いな、なんて思ったりする。

オープンカフェで大学生の女の子達が楽しそうに話してる姿を見て、一番楽しかった学生の頃を思い出す。

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