好きって言って!(短編)
「菜々ってば、重役出勤じゃん」

昼休みの学食。
和泉は私を見つけると、手を挙げてそう言った。

あのあと、シーツにくるまったまま寝ちゃった私を淳也がベッドに戻してくれたみたいで、目覚めたのは朝だった。

淳也はとっくに家を出ていて、私が戸締まりをして出てきたってわけ。

時間も時間だったから、午前の講義は諦めて、一度家に戻って着替えてから登校したところ。

お母さんには昨日は和泉の家に泊まったことにしてあるから、アリバイ頼まなきゃ。

「あ、和泉。
昨日泊まったことにさせて」

「いーけど。
昨日は結局どっちとヤッたわけ?」

私は慌てて和泉の口を押さえて辺りを見回す。

昼時で騒がしいからか、周りも気にしてないみたいで、ホッと胸を撫で下ろす。

「大きな声で言わないでよ!」

「いーじゃん。
ねぇ、どっち?どっち?」

もう、和泉って本当に困ったやつ。

私は和泉の耳元で、自分の口を覆いながら、淳也に決まってるでしょ、と言った。

「ふーん。
菜々は傷心だから、慰めてモノにしちゃってもいいからって勧めといたのに。
崇先輩って押し弱いなー」

原因はお前かー!

わなわなと怒りで震えながらも、いや、和泉がこういうやつだって知ってたはずだ、と自分に言い聞かせる。

「どうなの?
吉成くんだって、慌ててあんた迎えに行ったわけでしょ?
何か進展なかったの?」

確かに、昨日の淳也はいつもと違った。

誤解とは言え、駆け付けてくれたわけだし。

俺じゃ足りてないみたいでムカつくって言ってくれたし。

「それって嫉妬じゃないの?
あんたに他の男が出来たら嫌ってことでしょ?」
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