好きって言って!(短編)
うーん…。

我に返ると、いつの間にか飲み屋から出て、街中に立っていた。

「菜々ちゃん気付いた?」

崇先輩に支えられて、何とか歩けてる状態。

そうだ、間違ってお酒飲んじゃったんだっけ。

「ご、ごめんなさいっっ」

慌てて離れようとしたところで、足がよろける。

「大丈夫だから、寄り掛かってて」

私の体に回された崇先輩の腕に力が入る。

少し低めな崇先輩の声は、アルコールが回った頭に心地好く響く。

駄目だ、頭がまだふらふらする。

「アルコール駄目って言ってたけど、ここまでだとは思わなかった」

崇先輩は笑う。

「すみません、迷惑かけちゃって」

「まだアルコール抜けてないんじゃない?
…休んで行く?」

崇先輩がそう言って指差した先にラブホ街があるのは、私も知ってる。

「どうする?」

こんな酔っ払いなら、きっと無理矢理連れ込むことだってできるのに、崇先輩は私にそう聞いた。

崇先輩のことは…嫌いじゃない。

会ったばかりで良くは知らないけど、話していて楽しかった。

こういう人と付き合う方がいいのかな、って思った。

今だって、展開は急だけど、ちゃんと私の意思を尊重してくれてる。

ふと、頭の中に淳也の顔が浮かんだ。

淳也のことが好きなら行くなって止める自分と、淳也との関係をいい加減終わらせるために行っちゃえって言う自分が葛藤してる。

そのとき、

「菜々!」

急に名前を呼ばれ、私は驚いてその声を振り返った。
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