好きって言って!(短編)
立っていたのは淳也だった。

「何で…」

こんなところに?

私がそう言いかけたとき、

「酔った女ホテル連れ込むなんて、格好悪いことしてんじゃねぇよ!」

淳也の右の拳が崇先輩の顔にヒットした。

衝撃で地面に倒れ込んだ先輩を尻目に、淳也は呆気にとられた私の腕を強引に引いて歩き出す。

「ちょっと待って…」

私の言葉も聞く耳を持たない。

「淳也、待ってってば!
殴ったこと、謝らなきゃ!」

「お前、無理矢理ホテル連れ込もうとした男を庇うのかよ!」

え?

「ちょっと待って。
誤解だよ。
先輩は、私を介抱してくれただけで…」

「飲めないやつに無理矢理飲ませて、何が介抱だよ。
お前だってガキじゃないんだから、相手に下心があるくらい分かんだろ?」

えええ?

何か、だいぶ事実と違う。

「誤解だよ!
私が勝手にウーロン茶と間違えてウーロンハイ飲んだの」

「―――え?」

淳也が急に立ち止まったもんだから、足元の覚束ない私は、その場に尻餅をついてしまう。

さっきの私みたいに、今度は淳也が目を丸くしていた。

「あいつが酒飲むように強引に迫ったんじゃねぇの?」

私はふるふると首を横に振る。

「お前酔わせて、お持ち帰りしようとしてたんじゃねぇの?」

…うーん。
本当はちょっとそんな流れになりかけたけど。

でもニュアンスが違うから、もう一度首を振った。

「マジかよ!」

淳也は、チカちゃんにはめられた、と小さくつぶやいた。
< 6 / 21 >

この作品をシェア

pagetop